アスペルガー医師ロンの日常

医師でもあり、アスペルガー症候群当事者でもあり、更には911GT3&ロードスター乗りでもあるワタクシのささやか(?)な日常

DIRGES OF ELYSIUM

 ロンマニアの皆様、こんにちはm(_ _)m


「文化芸術というものは人に強制したり、または人を導いたりということはできないんです。つまり、もともと役に立たないことです。そのかわりに自由度があるんですよ」

By 吉本隆明


 といった今日この頃、皆様はどうお過ごしでしょうか。


*文化としてのモータースポーツ及びスポーツカー

 ニッポンのクルマ産業ってのは実に不思議である。自動車メーカーが多数あって、その中の3つは世界売り上げトップ10に入る程のクルマ大国であるにも拘らず、有名なスポーツカー専門メーカーがたった1社も存在しない&F1総合王者どころか1勝すらできないんだから、コレが不思議でなけりゃ世の中に不思議は存在しないって話である( ̄〜 ̄)ワタクシの知ってる限りだとトミーカイラが短期間そうだっただけで、継続的にブランドとして確立したメーカーは1社も無いのである。まぁこう言っちゃ何だけど、今に至るまでニッポンのメーカーにとってのモタスポは”広告媒体”でしかなく、スポーツカーも”商品”でしかないのである。だから景気が悪かったらさっさと撤退するし、迷う事無く生産終了にしてしまえるのである。例えばホンダとかホンダとか、あとホンダである(笑)


 その点、イギリスは実に羨ましい限りである。イギリス国内の主要メーカーは悉く他国メーカーの傘下で、イギリス国内のクルマ産業はとうの昔に壊滅してるんだけど、F1はじめモタスポの世界チャンピオンを数多く生み出しているし、大小含め数多くのスポーツカー専門メーカーが存在するからである。アストンマーチンマクラーレンロータスケータハムといった有名所だけでなく、ホント数え切れないぐらいメーカーがあるのである:




ホントはまだまだあるのであるが、流石に限が無いので止めておくとしよう(笑)無論、儲からずに潰れてくトコも少なくないのだが、ソレと同じぐらい新興メーカーが出てくる。そう、スポーツカー専業って実は儲からないのである。儲からないと分かっていても、イギリス人はスポーツカー作りを止めない。何故ならば、イギリス人にとってモタスポとスポーツカーは文化だからであり、損得勘定で割り切るモンじゃないからである。


*スポーツカーvsニッポン刀

 そう、何故ニッポンにスポーツカー専門メーカーが存在しない&ニッポン人モタスポ世界チャンプが出てこないかって、ニッポンにモタスポ文化とスポーツカー文化が未だ根付いてないからである。ココで「モタスポとスポーツカーは文化」と言われてもピンと来ないロンマニアの方も少なくないと思うので、ニッポン人にも分かり易い例えに言い換えるとしようジャマイカ。よーするにイギリス人にとってのモタスポとスポーツカーは、ニッポン人にとっての剣術やニッポン刀みたいなモンなのである。ニッポン刀の売買やニッポン刀作りが儲かるワケでもないし、剣術や剣道の道場を運営してるからって儲かるワケでもない。でもニッポン人にとってニッポン刀は昔も今も美と力の象徴であり、剣術や剣道を極めんとする人は社会的にも尊敬されるし、ニッポン刀はアニメやマンガやゲームには欠かせない要素である。




 地球の裏側から遠隔操作されるドローンからミサイルが飛んでくる現代において、ニッポン刀なんて何の役にも立たないのである。自衛隊や警察だって使わないし、かといって民間人が帯刀したら銃刀法違反でタイーホである。でもニッポン刀を作って売り買いする市場、ニッポン刀を上手に扱う技術、ニッポン刀を「カッコ良くて美しい」とする風潮は今も昔も変わらないし、儲からないと分かってても今後も細々と続けられるであろう。何故かと言えば、ニッポン人にとっての刀剣と剣術は、文化だからである。文化は黎明期→大流行→爛熟期と移行して、あとは大きく盛り上がりはしないけど、不動の評価を得たまま細々と時を紡いでいくのである。多分ワタクシが死んだ後も、刀剣と剣術の歴史は続いていく事になるであろう。


 多分イギリス人にとってのモタスポやスポーツカーも、こういう事なんじゃないかと思うのである。スポーツカーを作る事は名誉ある事であり、スポーツカーを上手く操る技術を持つ事やスポーツカーを所有する事が称賛され尊敬される事であり、モタスポで世界的な勝利を収められる人物は英雄とされる。そういう風にモタスポとスポーツカーを良しとする文化が、今のニッポンには欠けているのである。雑談時に「趣味はサーキット走る事」って言うと十中八九「え?サーキットってどうやって走るの?」って返事が返ってくるし、オフ会や全国ミーティングはオタクばっかだし、ワタクシが長年熱いクルマ話を延々としてるのに読者が全然増えない。実に憂うべき状況なのである(笑)


*文化の壁

 まぁでも考え方を変えれば、こういう”文化の壁”があるからこそニッポンの既存メーカーが中々本格的な世界へ乗り込んでこようとしない&ニッポンにスポーツカー専門メーカーが無いんじゃないかとも思えるのである。何故なら文化が無けりゃ、その真髄が分からんからである。話をニッポン刀に例えると、例えばどこかの海外刃物メーカーが「チタン合金とCNC加工で鍛え上げられた刃は玉鋼のソレよりも40%も軽く70%も高剛性。コレをドライカーボン製の鞘に収める事により、居合の速度は平均で20%アップ」なんてニッポン刀を作ったとしたら、果たして従来の刀剣ファンが買うのかって話である(笑)ネタ用として買うモノ好きは若干名居るだろうけど、ソレがニッポンの刀市場を揺るがすなんてのは考えられんのである。



 こういうのを観て「このまんまじゃニッポンの刀産業ヤベェ(;゚Д゚)」と思うかって話である(笑)多分「ニッポン刀ってのは叩き切るのではなく引いて切る云々」「柔らかい鋼を固い鋼で覆って云々」という話が延々と出てきて「やっぱニッポン人刀鍛冶がニッポンの鍛冶場で作るニッポン刀がナンバーワン!」って結論に達する事であろう。コレと同様の事が、イギリス人はじめスポーツカーを見る目の肥えたヨーロッパ人が、ニッポンのスポーツカーを見る時に起こってるんじゃないかとも思うのである。でもまぁ文化ってのは延々と時間をかけて作るモン&ニッポンにおけるクルマ文化の土台は決してゼロではないと思ってるので、今後も暖かく見守っていきたいと思う今日この頃であった。